光る海

 春先の湘南の夜の海を照らした夜光虫のニュースで思い出したことがある。
1999年アラスカのスキャグウェイという街で天気待ちをしていたときのことだ。ゲンテンスティックがちょうどスタートしたときの撮影でこの土地を訪れていた。当時のモデルラインナップはTT、マックスフォース、インフィニティの三種類だけであった。滑り手は玉井太朗、高久智基、永田学のニセコオリジナルメンバーの三人である。バルディーズに比べると天候は安定していない。視界の厳しいアルパインを避けて、森の中などで撮影をした。いずれにせよゲンテンスティックが産声を上げアラスカでの第一歩を記録出来たことは名誉である。フェリーに乗っての移動したことや雰囲気のある街のロケーションも創刊間もない専門誌「フリーラン」の記事に色づけをした。その後は、このスキャグウェイのトリップをコーディネイトした岡崎友子さんの紹介もありアメリカのフィルムクルーTGRと撮影出来ることになっていた。自分一人現地に残った。メンバーはジェレミー・ジョーンズ、ブライアン・サバード、ゴールドメダリストのスキーヤー、トミー・モー、ジェレミー・ノービス、ゴーディ・パイファーである。撮影するのはジョーンズ・ブラザーズのスティーブとトッド、写真にスコット・マークウィッツというパウダーマガジンのコンテンツのような豪華メンバーだ。そして同じ宿にはなんとスタンダードフィルムもいた。ノア・サラスネック、ネイト・コール、ヨハン・オロフソン、ケビン・ジョーンズ、そしてトム・バート。撮影チームはマイク・ハチェット、トム・デイ、アリ・マルコポーロ、写真はアーロン・セドウェイ、ダノ・ペンディグラスと、こちらもトランスワールドから飛び出して来たような超豪華メンバー。よくもまあこんなところに独り日本人が潜り込めたものだと自分でも感心してしまうのだが、何事も人の縁とタイミングで物事は進んでいくようである。
 スキャグウェイの山々はまるで魔女の帽子のように、ツンと尖っている。映画で作ったような情景が実際に目の前にある圧倒的な存在感だ。最高の滑り手たちと最高の舞台が用意されているであるが、風が生まれる土地とネイティブたちがつけたとおり確かに風が止む気配がない。ゲンテンチームとのときよりも状況は良くない。風は毎日、吹き続けヘリコプターをいつまでも飛び立たせてくれない。西部劇の舞台のようなゴールドラッシュ時代から続く街で時間を潰すことになる。スタバよりましなラテを出してくれるコーヒースタンドも、品揃えのいいハードウェアストアも1マイル歩いていくチャイニーズレストランも3日目には飽きるというものだ。メンバー達とクラシカルなホテルでレンタルビデオを何本も鑑賞したり、はたまたバーで飲んだくれたりするしかない。一週間もした頃、そんな生活にも慣れがでてきた。夜半過ぎ適度に酔いが回った頃合いにトム・バートとガイドのショーンドッグが港に行こうぜと言う。彼らは仄暗い街灯を背にさらに暗い闇の方へ向かう。しばらくすると静かな波の音と礒の香りに包まれる。真新しい金属の桟橋に足を踏み出し、先頭のショーンドッグの照らす懐中電灯のわずかな光と彼らの足音だけを頼りに、真っ暗闇を進んでいくのだ。すると突然足元がスッとなくなった。海に落ちる!と腰が抜けそうになったが、実際はわずか10センチほどの段差であった。暗闇がもたらすもので、そんな感覚になるなんて、長いウェイティングと酩酊がもたらした不可解な感覚だ。50メートル程歩くと、海面から10メートル程の高さがあるようだ。トムは柵に括り付けてあるロープを引きあげると先につけてあるカゴが海から上がってきた。カゴの中身は夥しい数のエビである。「昼間のうちに餌を入れて沈めておいたのさ。」トムとショーンは大漁にニヤニヤしながら懐中電灯に照らされて真っ赤なエビをつまみ上げると頭を引きちぎって海に捨てた。するとどうだろう。漆黒の海面に金色の飛沫が上がったのだ。次々と頭をもいでは投げる度に海は金色に輝くのだ。なぜ海が光るのだと尋ねると「ミネラルだ。」という。ミネラル?エビの?いやミネラルって鉱物?ただの水滴でも光っていた。あれは一体なんだったんだろう?現実だったとは思うのが、なんだか夢の中の体験だったような気もしてくる。その数日後、天気は回復したが、山の雪は強風ですっかりと溶け落ち、斜面の全方向が崩れデブリで固まってモーグルのコースのようになっていた。「モーズリーなら滑れるんじゃないか?」とメンバーの誰かが冗談を言った。結局その日を最後にスキャグウェイを去った。パウダーマガジンの巻頭記事をゲットすることのかわりに、今は亡きノア・サラスネックを含んだ豪華メンバーたちと過ごした日々はいい想い出になっている。
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ホテルでくつろぐクルーたち。
右からネイト・コール、ノア・サラスネック、ゴーディ・パイファー、トミー・モー、ジェレミー・ノービス、
ジェレミー・ジョーンズ、スティーズ・ジョーンズ、アーロン・セドウェイ、ヨハン・オロフソン。
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by yoshirohigai | 2017-06-22 21:13 | 写真メモ

写真家 樋貝吉郎(ヒガイヨシロウ)が日々の暮らしや3板「スノーボード、スケートボード、超たまにスノースケート」をはじめバックカントリーのことを気ままに綴るフォト&コラム 。樋貝から最新のメッセージ「この滑りを何が何でも記録して欲しい! という撮影を希望するひとの連絡をおまちしてます」。お問い合わせ先 http://studiofishi.com


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